失せもの出ず
木原東子

いきあたりばったりに
集まった記憶のおもちゃ箱
きょうも両手で漁ってみるが

失せものばかりが鮮やかに
輝き失せぬ幻である

誰がもちこんだのか、モダンなデザイン 花札の
母の少女時代からきた それいゆの丸い瞳
童話といえば カバヤキャラメルの当たり札

人生最初のブローチは花瓶のかたち、エジプト風の
    どこかで落ちた
薔薇のローズの雨傘、わくわくした
    土曜日の中学校に置き忘れた
かっこよくてたまらなかった金メッキの腕時計
    高校で盗まれた?
赤いバッグ、緑のポーチ
    どうして消えた中味ごと
キラキラ光ってやまない指輪、マイプレシャス
    返してほしい
本物の金の猫、のブローチ、ダイヤの瞳
    バスの窓から逃げていった

うん、いまだに残ったものもある
この甲斐無き命、厄介なご亭主、消したい記憶も
このずぼらな生活、それにまつわる無駄買い、貰い物、おまけのカップ

中途半端な仕事、捨てそうで捨てない
自由という夢、掴めるのにつかまない
真理の追っかけ、理解できなくても追っかける

小さな古い時計のある家で
地震の不安とともに
宝子たちを護る覚悟で

世界一小さな歌に押し込んでみる
雨戸を叩くなにかの音を聞いてみる

ひょっとして君ならいいのに、本当に喪ったもの


自由詩 失せもの出ず Copyright 木原東子 2012-03-07 23:41:33
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