深海魚は固いベッドで横になる
ただのみきや

眠りがフクロウのようにさらって行った
わたしの寝顔を照らすのは
月や星ではなく
まるで深海魚のよう
自らのいのちの灯にほかならない


闇の毛布に包まれた
記憶の中の光彩は
彗星のように尾を引いて
たましいを駆け廻り
無意識の中に隠れ住む
詩人をゆりおこす

詩人のことばはイメージに変換されて
夢となって脳裏に降り注ぎ
湖の上の花火のように輝いては
やがて深層に静かに消えて行く

もっとも深い海の底に
一つの恒星が輝いている
そこには夜がない
誰も夢すら持ったままで
そこへ行くことはできず
ただもっとも深い眠りの中で
近づいて
その温かさにふれるだけ
記憶はなにも残らず
ただそこでのみ
人はいやされる

詩人もそこへはたどりつけない
たとえ深海の魔物に姿を変えようと
そこはいのちと死が混在するところ
近づいては その光でいやされるが
いつの日にか そのまま深く沈み行き
意識は融け去り もう肉体には戻らない



ヒマラヤほどの朝がなだれて来ると
わたしの一日がアナログレコードのように歪みながら
ノイズを刻んで回り始める
無意識の詩人は眠りにつき
朝の港に揚げられた深海魚は必死
口から内臓を吐き出しているのだが
そこには虚しく色を失った
夢の欠片しか見つからないのだ



自由詩 深海魚は固いベッドで横になる Copyright ただのみきや 2012-03-05 00:05:44
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