水底
伊月りさ
きみを
たいせつにされていない時間をくべて
かなしい町にしよう
はじまりしかない町
わたしが保証されるほど
糸が切れていくようなので
まちがったままでいいのです、
すばらしいままでいい
のです、なにも
伝えないでください、
平たく、小さい、
覚束ない摩擦や 時に、熟れた反動で
みなもをはねるときにだけ
晴れている空
晴れるほど
みえなくなるから
きれいにみえるだけなのに
だれもが視神経を洗い続けている
ねぇ わたしたち いつまで川を歩くの、
と 流されそうになる手をひいて
子宮におりていく
きみのこどもになりたい、
ぬるい血のなかでまるくなって
ずっと
生まれずに死にたい、
なんて
そんな風にカミサマをあざむけるのなら
感情などとっくに淘汰されているでしょう
このおさない手は いつ
みずからの髪の結い方を知るのだろうか
はじまりしかない と
ゆるい因果をむすんだ瞬間だろうか
さわられたいから、さわるの、
どうしてですか
きみはうまくみなもをはねそうだねぇ、なんて
砕かれるために集まったはずなのに
水底で
くすぶっているのが見えるほど
わたしたちは澄んで
骨でつむがれる渦をみている
それは黄色い骨、
たいせつな
死んでしまった骨、
山積される前に順番にならべて
(だれの肋骨でもいいじゃないか)
わたしにしてください、
わたしでなくても動けます、
この町はかたちからはじまるのだから
わたしたちの数だけ
ゆりかごが揺れていれば
どこで眠っても溺れることはなくて
きみは およぐことができて
世界は倍増して、
声は届かなくなって、
すべて 揺らぎ続けて、
少しずつ 終わって
少しずつ はじまっていく