水底
伊月りさ

きみを
たいせつにされていない時間をくべて
かなしい町にしよう
はじまりしかない町

  わたしが保証されるほど
  糸が切れていくようなので
  まちがったままでいいのです、
  すばらしいままでいい
  のです、なにも
  伝えないでください、

平たく、小さい、
覚束ない摩擦や 時に、こなれた反動で
みなもをはねるときにだけ
晴れている空
晴れるほど
みえなくなるから
きれいにみえるだけなのに
だれもが視神経を洗い続けている

ねぇ わたしたち いつまで川を歩くの、
と 流されそうになる手をひいて
子宮におりていく

  きみのこどもになりたい、
  ぬるい血のなかでまるくなって
  ずっと
  生まれずに死にたい、
  なんて
  そんな風にカミサマをあざむけるのなら
  感情などとっくに淘汰されているでしょう

このおさない手は いつ
みずからの髪の結い方を知るのだろうか
はじまりしかない と
ゆるい因果をむすんだ瞬間だろうか

  さわられたいから、さわるの、
  どうしてですか
  きみはうまくみなもをはねそうだねぇ、なんて
  砕かれるために集まったはずなのに

水底で
くすぶっているのが見えるほど
わたしたちは澄んで
骨でつむがれる渦をみている
それは黄色い骨、
たいせつな
死んでしまった骨、
山積される前に順番にならべて
(だれの肋骨でもいいじゃないか)
わたしにしてください、
わたしでなくても動けます、
この町はかたちからはじまるのだから

わたしたちの数だけ
ゆりかごが揺れていれば
どこで眠っても溺れることはなくて
きみは およぐことができて
世界は倍増して、
声は届かなくなって、

すべて 揺らぎ続けて、
少しずつ 終わって
少しずつ はじまっていく


自由詩 水底 Copyright 伊月りさ 2012-03-01 14:26:38縦
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