みみ
そらの珊瑚

食パンのみみが
初めて出会う言葉は
まだ星空が出ている時間から
働き始めるパン屋のおじさんの
「上出来だ」の嬉しい言葉だろう

スライスされる前は
全身が みみなので
工房の全ての音が聴こえることだろう

パン生地をこねる音
たたいて伸ばす音
調理器具がカチャカチャいう音
どれもみな正直で美しい労働の音

食パンがかつて畑で小麦だったころ
風にそよそよ吹かれる音も
聴こえてきただろう
それは
きっと 
そらみみじゃないよ

人のみみには
かたつむりが住んでいて
聴こえてくるいろんな言葉を咀嚼する
あんまり悲しい言葉だと
それは
そらみみだよと
優しい嘘をつく
殻に閉じこもって
聞こえないふりも出来る

みみは
きっと全てのものに
取り付けられていて
音や言葉を
心を澄ませて聴いている


自由詩 みみ Copyright そらの珊瑚 2012-02-21 09:27:11
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