手が汚れては本が読めない
あおば

              120211





手が汚れては本が読めない
という愁訴にお悩みとのことで
念のために両手を画像診断したところ
左側の画像は正常で
右側が異常の場合ですがぁ
あなたのは右にも左にも該当いたしません
がぁ、
このまま放置しておくと症状が悪化する恐れがありますから
血の巡りの良くなる飲み薬を差しあげますから
しばらくそれで様子を見ましょう
どこかで耳にしたような文言を聞き流し
雛アラレを炒っている
保存療法は時として危険であると経験的には知っているが
お金がないから名医のセカンドオピニオンを求めることも困難で
これからは医師の診断書が無い限り初診料は全額負担になると聞く
心配性の軽症患者には高度医療の場所は似つかわしくないからという理由らしい
手が汚れては本が読めないというのならば、手首から先を切断したら良かろう
痛いから嫌ならば手袋するか
腕組みして手を伸ばさなければ良かろう
いっそのこと
水洗いできる用紙を用いた本を購入するのが良かろう
或いは本から電子書籍に移行する良い機会かも知れないぞ
恐れていたセリフが跳び跳ねて
呪いのセリフを浴びせられたような気がして
新宿2丁目から地下鉄に乗って逃げるように帰宅した
本来ならば
本屋に2軒立ちより
気に入った本を見つけ出し
始発の新宿駅から坐ってゆける電車に乗るつもりであったのだが・・
わずか10秒から30秒間のストレッチに耐えられず
エスカレーターに乗せられて
地下鉄のホームに辿り着き
発車間際に飛び乗れて
満員の肩越しに新宿駅通過を恨めしげに眺め
西へ向かって疾走する電車に身を竦め
手探りでバックの隅から雛アラレを摘み出し
音を立てないようにもぐもぐしながら午後6時の指針を確認し
過敏という言葉を噛み殺し
平成から平静、平安から平常というようなデーター圧縮する際の
量子化雑音を黙視する危険性をも検知するセンサーを一気に呑み込んだ
また太るねというセリフにも聞き飽きたので・・








「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作 タイトルは、クローバーさん



自由詩 手が汚れては本が読めない Copyright あおば 2012-02-11 21:16:50
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