隊列
HAL
誰か知らないか
人工衛星しか登場しない
SF短編小説を
その作品を見い出したSF作家は
それを書いたSF作家が残すに価する作品は
その一編だけだと評していた
でも確かにそのSF短編小説は
秀逸な作品だった記憶がある
その人工衛星はすでに滅び去った人類が
希望を託して宇宙に住める星を
見つけるために打ち上げたものだった
その人工衛星はこの宇宙の片隅で
まだ光を放つ恒星を見つけ出した
その人工衛星はその貴重な情報を
母星である太陽系第三惑星に送った
しかしその太陽系第三惑星はすでに
膨張した太陽に呑み込まれ消滅していた
しかし人工衛星は徐々に光が失われゆく
恒星の情報を送るのを辞めなかった
繰り返し繰り返し人類に送り続けた
その途中で多くの他の生命体の星から
打ち上げられた人工衛星がその死滅する
光が薄くなっていく恒星の軌道を周り続けていた
その中でもっとも優れた叡智によって
創られた人工衛星が軌道から外れ
違う方向へと向かいはじめた
人類の創った人工衛星も
またその他の数え切れない人工衛星も
先頭を切った人工衛星の後を追い始めた
まるで海洋を越えて次なる陸地を目指す鳥が
隊列を組んで飛んでいくかのように
先頭を切った人工衛星はこの宇宙ではない
次なる宇宙に輝く恒星を感知していた
その美しい隊列はあたかも希望を描くように
読むぼくにもその隊列が見え物語は終わる
誰か知らないか
そのSF短編小説を
ぼくはずっとネットも含めて
あらゆる図書館も訪ね捜したけれど
ぼくの希望を打ち砕くように
その物語は忘れ去られていた