熱狂
salco

高一の冬休み
駅前の割烹でお運びのバイトをした
一階がテーブル席、二階は座敷
宴会料理のお造りや鍋はそちらの厨房で
専任の板前とパート二、三人が誂える
多い時は社長夫婦も加わる
夕方から十一時まで
宴席を片しに行っては大学生の二人と
酔客の忘れ煙草をガメていたが
眉もひそめず優しくしてくれた
四十代、五十代のおばさん達は
素足で冷えないのかと
毎日のように訊いては呆れ顔をした

そんな夕刻
準備中の二階が騒ぎになった
駆け下りて来たおばさんが小声で
ねずみが出たと報告し
板長と二、三人が加勢に行った
ドタドタ、ガタガタが少時続き
静まり返った
戻って来た板長とは対照的に
女性陣は一様に興奮していた
夢中で追い詰めたねずみを
スリッパやサンダルで叩いたのだと
感嘆符で上気を鎮めているようだった
藍染めの上っ張りの抜き柄に
小さな血飛沫が染みていた


自由詩 熱狂 Copyright salco 2012-01-29 00:46:05
notebook Home 戻る