感性は理性の食卓に満足できない
ただのみきや

時間のオブジェなんぞ飾った
キザなダイニングテーブルで
おれたちの議論といえば
百万回も繰り返された
チェスの攻防だ

おまえの遺体の第一発見者となった
夢を見たことを黙っていたのは
貸しを作るためではない
おれはおまえに対していつだって
温情を忘れてはいないってことだ
切っても切れない腐れ縁
お互い逃れる術はないからな

原子力でも搭載したかのような
音を響かせている冷蔵庫から
おまえはおよそ食い物らしくない
いくつかの素材を取り出しては
無造作に皿にならべたてる

目のない魚が見る夢
丸い水滴に根ざす食虫植物の雌しべ
誰かの思い出から掘り出した
衣服や靴に包まれたままの殺意の化石
瓶詰めにされた時代物の孤高の概念
大衆紙の文字で切り貼りされた
欲望と官能の展開図
粉砕された詩を朗読する暗がりの女の声
涙と皮肉とナツメグとクローブが少々

気に入らないのはそいつをレンジに入れたことだ
メモリのつまみを十数年分は回している

おまえはおれを笑いっぱなしの嘘つきだと言うけれど
おれに言わせればおまえは机上の空論ばかり
陰気なパラドクスのお面でもてなそうとする
たちの悪い壊れ方をした目覚まし時計だ

マイクロ波は内側をカチカチに焼き上げてしまう
外側はぬるい顔をしたままなのに
おれはそんなのは嫌だ
おれはレアーでなくては気がすまない
切っても血がでないようなものは欲しくない

レンジの中から声が聞こえる
クスクス笑う女の声だ
それだけでもう十分だ
今すぐ盛り付けてほしいのに
おまえはレンジの鼓動が止まるまで
頑なに鍵をかけ続ける
おれは神経に秒針を刺されながら
レンジが踊り続けるのを見守るしかなかった

やがて 完了 を告げてレンジはこと切れた
おまえは中から白い皿の上でぶすぶすと燻っている
ページが張り付いたまま焼け焦げた本を取り出し
首にナフキンを巻くとナイフとフォークで食べ始めた
それは毒にも薬にもならない
内側まで完全に焼かれてしまって反発することもない燃えかすだ

そんなものはごめんだ
おれはあいつの冷蔵庫から勝手に食材を調達し
そこを出て扉を足で閉めた
街灯に照らされた神経回路を仰向けに頭から滑り落ちると
おれは自分のために料理を始めた
マイクロ波は3分で十分だ
そら あの女のクスクス笑いが聞こえてきた
思わずおれも笑い出しちまう
うまい飯が食えそうだ



さあ 出来上がり

どうだい あんたも









自由詩 感性は理性の食卓に満足できない Copyright ただのみきや 2012-01-22 01:21:52
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