水槽部屋
山中 烏流



 いっそのこと
 君が死んでしまえばよかった
 
 血生臭い、たくさんのやり取りの果てで
 私が
 産み落とそうとしたのは
 いつか君に
 捨て置かれた、壁際の
 ひび割れにも似た
 
 
 床に散らばった、ドライフラワーを
 踏み荒らして
 窓に虹が架かるよ、と
 投降を
 差し迫る君の声は、紛うことなき凶器で
 
 弾け飛んだ
 第一ボタンの行方を知るより
 もっと
 早く、唐突に
 私は
 背中を押された、その腕に
 爪を立てて
 

 
 いつの日か
 死んでしまった
 言葉にすらなれなかった、私たちの
 産声を
 集めた君が
 今
 ここで
 括ろうとした首
 ひたすらに朽ちようとする
 この部屋を這い出して
 伝えようとした、細い腕に伸びる
 傷


 酷く優しい、だなんて
 言うなよ、だなんて
 なあ
 
 
 
 擬音ばかりを口に運ぶようになった
 あの日
 君を
 殺してしまいたかった
 
 いっそのこと
 君が死んでしまえばよかった
 
 
 室外機の低く唸るような子守唄に
 頭を打ちつけながら
 玄関を叩く
 何もかもより、君を選んで
 私の
 湿りきった
 たくさんの、幸せな未来を描いた、言葉で
 君を
 溺れさせてしまえば



 唇を噛み合った
 君の背景が、途端にふやけていって
 遠くで
 澄み切った鐘が鳴る

 
 窓の外に架かる虹を指して
 君は
 何度も、繰り返し、
 投降を叫んでいる












自由詩 水槽部屋 Copyright 山中 烏流 2012-01-22 00:08:16
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