クロール
山中 烏流




急かすほどに緩まる手綱を
持て余しながら
黒目がちに揺らめく人々の波を掻いて
少女は
遠く、海を目指した





蹴り飛ばす買い物袋から、無精卵が弾け飛んで
方々に散る殻を
嗚咽の波が浚っていく

目を塞ぐ手を掻い潜って
後に駆ける子供らの声を背に
少女は
最初の、息継ぎをする





言葉はどう足掻こうと言葉なのだから、
そう呟いた少年の
髪の毛を引き千切って
払い除けたのは右腕

初めての呼吸のように
耳を劈いた
その安堵の証拠を
握りつぶしたのは左腕





 
駆け抜けたゴールテープを繋ぎ直して
 持ち直す役目は、君たちに譲るよ


少女は
迫る壁を、蹴る








自由詩 クロール Copyright 山中 烏流 2012-01-19 04:40:24
notebook Home 戻る  過去 未来