ただのみきや

世の中に
いくら偽物が溢れているからと言って
悲嘆に暮れる必要はない
イミテーションや贋作があるってことは
ちゃんと本物が存在しているってことだ

 「 わたしは必死に探し続け
   祈り求めてきたが
   ついには見つけ得なかった
   そんなものは存在しない 」

そんな気持ちは痛いほど
だけど わたしやあなたが
たとえ一生かかって
見つけ得なかったとしても
それで本物が存在しないなんて
言える訳はないのだ

まだ見ぬ本物と
空想の産物の違いは明らかだ
それはすべての時代の
すべての国のすべての人にとって
普遍的なニーズか否かということ
火を噴くドラゴンの魔法とか
宇宙人のテクノロジーなんかじゃ満たされない
われら人類の心に
ぽっかりと空いた冷たい穴
そう それを満たすことができるのは

愛だけだ

人は生まれながらに愛を必要としている
それなしには生きられない
人は教えられなくても愛を求めている
意識せずとも 人が
人である故に

声高らかに愛を歌い 讃え
愛を慕い求める人々

愛を蔑み 愛を罵り
愛を黙殺しようとする
それほどまで
愛に飢えた悲しい人々

人は
人に愛を求める
与えてくれる人を
与える対象としての人を
しかし
忘れてはいけない

愛は 人ではない

人は 愛ではない

愛は鳩のように
宿ったかと思うと
また飛び去ってしまう
おそらく人の心ってやつは
よほど居心地が悪いのだろう
そして残された人々は
互いの胸にぽっかりと空いた
冷たい穴を見ては
途方にくれてしまうのだ

だからイミテーションが必要になる
本物そっくりのものが
本物ではないから
別のものもいろいろ必要になるのだ
例えば ルールとか
見て見ぬふり とか
忘れてしまう とか
本音の本音は言わない とか
こっそり涙をながす とか

本物は太陽のよう 人の心の
冷たく暗い虚無の宇宙をも
いつも温め続けられるほどに
イミテーションは 外側だけ
中身はつめたいまま

だけど 冷たい模造品だって
抱きしめ続ければ
ひと肌くらいには温まる
冷え切ってしまった魂には
それも またあたたかな慰め
愛なのだ

だから たとえまだ今
本物を見つけていなくても
不幸を嘆くことはやめにして
温めつづけよう
イミテーションが本物に変わる
そんな奇蹟も
起こらないとは
限らない

気づかないだけで
本物は
すぐそばで
翼を休めているのかもしれないのだから
長く住める
安住の場所を探して



自由詩Copyright ただのみきや 2012-01-18 00:25:43
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