Spotted water(豊穣のひと)
恋月 ぴの

わたしは愛したい
あなたの優しさ
わたしは愛したい
あなたの眼差し
わたしは愛したい
あなたの存在

猫である
愛である

 


ファミレスの窓側席で神事を語る

日替わりランチのコロッケを口いっぱいに頬ばったまま
三杯目のミルクティーへと手を伸ばす

最近、あっちの方はどうなの?

あっち
彼岸での厳粛な神事

霊験あらたかな神を敬い
みずからを生贄として差し出せば

四人がけのテーブル一杯に拡げた贅沢三昧は
専業主婦の慎ましさ

どこかで猫が鳴いているよな

それこそが愛の真実と鳴いているよな

 


わたしは愛したい
あなたの歯並び
わたしは愛したい
あなたの耳たぶ
わたしは愛したい
あなたの襟足

猫である
愛である




愛するふたりは手を繋ぐ

愛の在り様を確かめたくて
それぞれの本意を確かめたくて

固く繋ぎあいながらも
ふと離してしまいたくなる誘惑にかられつつ

胸元に秘めた氷の刃
抜くか
抜かぬか
迷い箸は心の迷い

どこかで猫が鳴いているよな

それこそが愛の真実と鳴いているよな




わたしは愛したい
あなたの鎖骨
わたしは愛したい
あなたの尾骶骨
わたしは愛したい
あなたの恥骨

猫である
愛である




何故に人は未来を我が子に託すのだろう

あなたの語る夢の端々は
切望してやまぬ男児の歩みが総てなら

やんごとなき夜毎の神事と
獣のかたちで繋がる夫婦(めおと)の乾き

どこかで猫が鳴いているよな

それこそが愛の真実と鳴いているよな




猫である
愛である






自由詩 Spotted water(豊穣のひと) Copyright 恋月 ぴの 2012-01-16 18:59:00縦
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