お面
砂木

嫁いで どれくらいたった時からだろう
実家の両親が 他家の者として私に接し
夫の両親も 嫁として私と接した

血族でも 他家の者になった私は
実家の事には 深く口を出さず
それが お互いのためだと教えられた

家を出た者が実家にいろいろ言って
内輪もめする話も聞く
力は貸しあっても 他人という距離感は
必要な事なのだと 私にも思えた

しかし 実は寂しかった
子供の頃は親と喧嘩もしたが
言いたいことを言っているようで
他家の者として 言えない事も多くなり
嫁いでからは 喧嘩にならない
他家の嫁 として親も抑える
必要な距離感だと思ってもどこか虚しい

そんな時 工芸店で 父母に似たお面を見つけた
男のお面と女のお面を買って
どうでもよさそうな夫には黙って
部屋に並べて飾った

そのお面に 父さん 母さん と呼びかけると
なんにも答えないから 安心して甘えられた
子供のように我儘に ただただ
父さん 母さん と呼ぶと 気持ちが明るくなった
娘の私の行き所を お面が引き受けてくれた
私が私として自立するには ごまかしが必要だった

夫に言ったなら多分 爆笑するだろう
嫁になった娘の気持ちを夫に言った所で
どうにもならないと思い 言っていない
ほー とか言うぐらいだろう 多分

本音と嘘は同じ 実物も虚像も同じ
位置確認をするための 幻に過ぎない

心が身体から流れていかないように
防波堤のように お面を乞う

力のない飾り物に 助けられる営みもある


自由詩 お面 Copyright 砂木 2012-01-08 21:18:59
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