シンパシー
salco

年始の客に酒蒸しか
エスカルゴバターにしようと
前夜スーパーで買ったはまぐりを塩水に浸けた
途端に気泡をプクプクッと吐いた
息をついている
命を摘まれるとも知らず
中国の沿岸で狩られ
淀んだ水槽で遥々運ばれ
生きながらきつくラップで押さえつけられ
乾いたポリスチレンの皿に潜り込めもせず
狭隘の酸素にじっと我慢していたのが
息をついている
明日命を摘まれるとも知らず
合成樹脂のボウルの海中で幾重にも重なって
気泡を吐き出している
私の知らぬ世界から
私の知らぬ生き物が

驚きを以て見つめていた一瞬間
主客が転倒していた
貝のひとつになっていた視界
人間という性分の不思議

尚も真夜中
水を足し塩を加えると
キュウキュウと鳴いた
その動物的反応に罪悪感がいや増した

それで、翌朝
何の感懐もなく熱した鍋に空けたのだ


自由詩 シンパシー Copyright salco 2012-01-04 21:55:40縦
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