正月の空気
木原東子


お正月、
特別なその日をくぐる
肩上げの晴れの着物に赤いりぼん
門松は凛々しく

遊び仲間はおすましして
行ったり来たり
どのお正月も晴れていたような
追い羽根の檜扇の実は
音高く響いた


成人したというお正月
華々しく車を連ね
振り袖姿晴れがましく
一族が故郷に集った

お世辞などもいわれたりして
実に美味なるお料理を
食べたが排泄物が
出てこない

恥ずかしがりの乙女ゆえ
なんにちも秘かに悩んだ
浮かぬ顔を不審がられる
思いもかけず待ち伏せされた
恐怖の晴れ着


末っ子が隣りで大きい
母は反対側で遅い
春日神社の石段暗く
ぞろぞろ森の中、善男善女

突然空が現れる
例の如きお賽銭お神酒おみくじ
末っ子は笑顔、そのあと鬱になるとは
知らない

長男はもう空にいた
彼の人生を済ませて

母は父を見送った後もまだまだ
もっと長く生き延びるとは
思わずに拍手を打つ

露店で小さな鳥を買う
人を感知してチチと鳴く


敗戦引揚げ不況好況
浅間山荘、サリン、台風、阪神と東北大震災、水素爆発
幸いにも厄災から免れて

末っ子が父となる
オトートが死ぬ
母とせめて正月を過ごそうか
老人ホームから三晩暇をもらって

驚くほどだ
赤ん坊を世話するのと同じ

こんな90歳が待っているなら
どうして生きよう
中天には昼の半月
欠けるのか満ちるのか
不明な形をして


自由詩 正月の空気 Copyright 木原東子 2012-01-04 20:18:07
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