カンバンです
お花しまいますよ
いいんですか
いくら駅前の喫煙所が近いからって
こんな花屋に居座ることないじゃないですか
これ どうぞ
なんですか
花です
はあ
…
すきなひとにあげてください
はい
はい
どうぞ
すきです
すでにシャッターを下ろした花屋
小さなカウンターの上に女を転がし
ラッピングがだらしなく散乱する背景
エプロンからはさみを取り出した女
その手は確かに震えていて
舐めあげると女の嬌声が響いた
わたくしが
はしたなく声をあげるのは
そんなにも愉しいものですか
おかしいでしょう おかしいでしょう
ああ、
お化けが――
(っく…)
こんなにも透けて
あおくひかって
つくりかえられちゃ、
うう
ピリリ
ガラス張りの風呂場に
おまえの容器ごと運んで
だれよりも青い血液を流してやった
キスをしながら
歯をひとつひとつ舌で陥としながら
むこうには くずれが
庭園が――
堕ちた子の箱庭
*
つとに
すこしだけ喉がいたみ
わたくしの手をにぎる娘は
しあわせそうな顔をして眠っていて
こわれた時計はいつまでもわたくしを起こさず怠け
それでも朝は今日もすこしだけ震えていた
息をふきかければ
ちいさな生きる手は融解し
針は背筋をのばした
ディリリ
今朝も花鋏を手に 朝をむかえた
窓に水滴がなるまで
まっていようね
黄色い部屋はわたくしを焦がします
青い血液はあなたが死んでから赤く通いました
娘が風邪をひきました
わたくしにはそれさえも愛おしく
あの子を抱きしめると心臓をとめてしまう気にもなります
不器用に歩いて まま だなんて
*
家族で公園に行ったことがあります
わたくしの手を引く人の、きらめく背中を懸命に追いかけて
煙草から吐き出される煙はやがて
ボーロに変わって娘の小さな口に届いたようでした
あなたとわたくしが逆だったらよかった
あなたを孕ませて命の宿るからだを知らしめてやりたかった
と、
ボールがころがってきて、
わたくしは手を離してしまった
(ため息をついて走り出すきみを横目で見ながら)
あなたは
(おれは)
悲しそうな顔をして
はしゃいでいました
歩くのが下手な子どもみたいだなおれ
せめて朝冷えが届きますように
おやすみね