新春お年玉セット
たま

 あけましておめでとうございます。   たま




 オロチ

箸は一本でいいと言う。
ふたりの子は箸を一本ずつ持った。
狐の権太はうどん屋に化けて
村の二本松の辻に店を出していた。
「おい、おい、おまえら。箸ならもう一本やるぞ」
ふたりの子は首をふって
「いつもこうしてる」と言った。
見ると器用に食べている。
どんぶり一杯のうどんがあっと言う間になくなって。
権太はおどろいた。
「へぇ、おまえら人の子ちゃうやろ」
「はい、オロチの子です」
「あひっー」
ド・ドーン・・と、二本松が揺れて権太はすっ飛んだ。
双頭の真っ白いオロチだった。



 森のお店

青い山が雪化粧をしても、森のお店は開いてます。
ちいさなねずみたちが、ドングリを買いにきます。
ひもじいミミズクが、トカゲのしっぽを買いにきます。
こわい顔したイノシシが、子どもをつれて
さつまいものツルを買いにきます。
「御代はいらないよ」
いつも、お店の奥からおばあさんのやさしい声がしました。
三月のまだまだ雪深い日のことでした。
ひとりの男がお店にやってきたのです。
「おばあさん、今日からぼくが店番をします」
「おやっ、あんた。もう定年になったのかい」
お店の奥からおばあさんの声がしました。
「はい。やっとです」
「そうかい。じゃあ、あとはたのんだよ」
しばらくお店の奥でカサコソと物音がしたかと思うと、
一瞬。 どっ、どっ、どっー、と、森が大きくゆれたのです。
その夜、寝不足のクマが干し柿を買いにきました。
「御代はいらないよ」
お店の奥からおじいさんの声がしました。
クマはへんな顔をしてお店の奥をそっと覗き込むと、
小走りで森に消えました。



 羊さん

羊さんがいっぴき、羊さんがにひき、羊さんがさんびき・・。
羊さんがひゃくにじゅうごひき、羊さんがひゃくにじゅうろっぴき、
羊さんが・・、
あ、ころんだ・・。
おかあさん、羊さんがころんだよ。
ねぇ、ねぇ。おきてよ、おかあさん。
もう、この子ったら。また、ころんだの。
羊さんはやめて、お猿さんにしなさい・・。
お猿さんがいっぴき、お猿さんがにひき、お猿さんがさんびき・・。
あ、木からおちた・・。
ねぇ、ねぇ。おかあさん。



 スーチ

スーチは二歳の夏に捕獲された。
バイミヤンの深い森の中だった。
長い戦争が終って
動物園は空っぽだった。
はじめて熊を見た子供たちは大喜びして
何度も、何度も、スーチに会いにきました。
そうして十年が過ぎた。
人びとは少しずつ戦争を忘れていった。
動物園には象もやってきました。
でも、スーチの生活は何ひとつ変わらなかった。
今日も鉄の格子にもたれて
両手の掌を舐めている。
今もかすかに森の味がしたのです。



 ぼく

カラスがおまわりさんのような足取りで歩いてきた。
「おい、おい、そこのヒナ」
「えっ・・、ぼくのこと?」
ふり向いた時にはもうぼくはカラスの胃の中にいた。
それからぼくは山をふたつ越えた
柿の木の根元に落とされた。
悪いことをしたのはカラスだよと必死に訴えたけど
柿の木は大きなあくびして
ぼくを肥やしにした。



 夕日

音もたてずに
こっそり憑いてくる
道は真っすぐだったから
ぼくがふり返ると
あいつは
慌てて身を伏せて隠れたつもり

馬鹿だなぁおまえは と
言ってやると
それっきり
追いかけてこなかった

半日歩いても
道はまだ真っすぐだったから
もう一度ふり返ると
あいつは
身を伏せたまま
滲んだ地平線の上にいた

ぼくは立ち止まって
眼を細めていたら
あいつは
ゆっくり沈んで見えなくなった

赤い犬だった



 牛馬童子

昔、むかし
熊野のふかい山のなかに
抱きあうようにしてのびる二本の杉の木があって
里のひとたちは夫婦杉と呼んでいました

夫婦杉の根元にはちいさな巣穴があって
いっぴきの子狐が棲んでいました
凍てついた真冬の夜のしたで子狐はひもじいお腹をかかえて
まんまるい月を見あげていました

 お月さまから白いお餅がおちてこないかのぉ。

 あ・・。

子狐はふっと、なにかを思い出したように
ふかい雪のなかを山里のみえる峠まで一気に駆けていきました

峠には牛と馬にまたがった童子のちいさな地蔵があって
地蔵の前にはいつも里のひとたちが供える
紅いとち餅がありました

 のぉ、ひとつやらんか。

子狐は童子に紅いとち餅をねだったのです
童子はくすっと笑って言いました

 千年たったら一本になる二本はなぁに?
 答えたらあげるよ。

子狐は首をひねってウンウンうなったけどわかりません

 ほら、おまえがねぐらにしている夫婦杉だよ。
 しっかり守ると約束したら餅をあげよう。

 うん。 約束するよ。


そうして子狐は千年生きて杉を守ったのです
夫婦杉はいつかしか一本のおおきな杉の木になって
いまでは平安杉と呼ばれています










自由詩 新春お年玉セット Copyright たま 2012-01-01 12:44:20
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