ゴミ屋敷の日雇い労働者
三原千尋

笑顔がきたないね
産み落としたその沼から
たばこくさい泡がぶくぶく立ちのぼる

円満とか
円滑とか
そういうのの前ではわたしの思いなんて
あとまわしにされるべきなんだよ

どこに行っても
へらへら笑いを怖がられる
心も化け物じみてしまえればいいのに
最近歯車に憧れているの
だってハードボイルドだし
化け物もハードボイルドじゃんね
そうあたしハードボイルドになりたいの!

社会の歯車にすらなれないやつに何ができる
すくなくとも
自分を守ることはできないだろうから

どこもかしこもしんと冷えた世界で
時間をすり減らしてお金をかせぐ
あの子みたいにかわいく笑えない
あの人みたいにやさしく守れない
ゆえに
わたしだけの
生存と
浪費のために
すり減らして
かせぐ

すり減りきった夜に
果実みたいな月が冷えている
夏に食べたらきっとおいしいのだろう
体内にこんがらがった熱がほどけて
しゅわ、と消えてゆくのだろう

なんのために
歯車でいるのかを忘れてはいけない
ぎざぎざした歯がすべて折れても
あの月にはなれない

なんにもしてくれない月にさらされて
生きていてねと祈られるアテレコと戯れて
わたしの脳みそはいつもひとり遊びのためだけで
夏まであの月を取っておけるかもあやうい
わたしには時間がないから
給料日までのカウントダウンを
繰り返し
更新し
忘れ
気がつけばよくわからない数字が累積しているだけ

いたずらに累積した数字たちと
冷えてかぴかぴになった一昨年の夏の太陽と
溶けてぐずぐずになった去年の冬の月と
そのほかありとあらゆる美しかったごみくずと
そこから漂ってくる腐敗臭とが
読み解かれるのを待っているのにも気づかないまま
今夜もわたしは臭い女をバスタブで煮出す


自由詩 ゴミ屋敷の日雇い労働者 Copyright 三原千尋 2011-12-25 20:06:38
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