空転突飛腹八分目
ただのみきや

それぞれに様々な「ことば」が書かれた無数の箱の前で男は沈思する 名詞 熟語 接続詞 形容詞…吟味に吟味を重ねた末 男は箱を積み上げて建物を建て始める


                実存の子宮に眠る
                碧き焔の罌粟 時
                間のゆらぎに波長
                を合わせ切れない
                いきり立つ平和は
                振動の背中を捉え
                崩れ落ちる 天空
                を削る雨のナイフ
                ・・ あっ

     【突然】びゅぅー!るり〜【風が吹く】びゅぅー!るり〜らら〜

建物は崩れあちこちに「ことば」の箱は転がった 男が慌てて箱を拾い集めていると 男の息子がやって来て言った「父さん その箱からっぽで軽いから風に飛ばされてしまうんだよ」 息子の正論は男を頑なにする 「いいからあっちへいって二字熟語の勉強でもしていなさい」 男は「実存」と書かれた空箱をまさぐりながら考える「もっと重量感のあることばを使ってみるか」


                実存の核心に深く
                埋め込まれた鉛の
                円錐は重力に押し
                潰された楕円の惑
                星に繋がれ あら
                ゆる不動な価値観
                の楔で留められた
                呼吸する山脈とな                
                り うわぁっ!
  
      【またもや】どっどどどどう〜!【風が吹く】どどうどどうだ〜!    

男は必死に駆けずり回り 遠くまで飛んでいった「ことば」の空箱を拾い集めてやっとの思いで戻ってきた「凝り固まっていた 確かに しなやかさが足りなかった 君の言うとおりだ」息を切らしながら男は一人「実存」と書かれた空箱をやさしく愛撫した


                実存の腹部から伸
                びる柔らか洗脳は
                風にどこまでもた
                わみ続け折れるこ
                とはない流形の変
                形の言霊の白玉の
                 しなやかな新体操
                 の腸で揺蕩うウー
                パールーパあっ!             

     ごごごごごごご【地響きみたいに激しい風】ごごっぶれっしゅぅ〜!

「んがああっちっくしょうーやってられるかぁ!」男は散乱した箱をむちゃくちゃに蹴り飛ばした すると息子がもう一度やって来て 言った「父さん その『ちくしょうーやってられるかぁ!』て なんかいいね すげー重みがあって びっちり詰まってるって感じ」 「 ……そう そうかぁ 」


                おうおうおうおう
               ちっくしょうやるって
              えのかあ!上等だよこの野
             朗 風がどうした来るなら来い
            批評も批判もかかってきやがれ お
           れは百本の矢が刺さった首なしの落ち武
          者だ 空爆あとから黒煙と共に湧き上がる反
         撃の叫びだ おれの悲しみは壊れた水道管だがお
        れの喜びは鳴り響くシンバル打ち鳴らす大砲だ おれ
       のことばは興奮したスズメバチの群れ 這いずり回る悪寒
      夢の中まで追いかけて行くかたわの狼群だ 裸になった太陽の
     音を無くしたキスの爆音だ 啓示の隕石 狙いすました落石 世界
    の壁紙を剥がしまくる上等な猥褻だ 極寒のネズミの歯 灼熱のガラス
   のどしゃ降り 脱皮する化石 虚空に張られた七本の弦 鏡の中からの絶叫  


           「父さん やっぱりちょっと 嘘っぽいね」


自由詩 空転突飛腹八分目 Copyright ただのみきや 2011-12-21 21:03:31
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