言葉へのコラージュ
草野春心



 「いくつかの骨」

  お前の
  すべすべした手の甲の
  化膿した傷口から
  いくつかの助詞が突き出ている
  それは月夜の骨のように
  生々しくも無機質だ
  だが
  そのうえ
  したがって
  接続詞の散乱した物置で
  僕がお前の
  失われた皮膚を捜す間
  お前の痩せた体の震えが
  目まぐるしく時制を更新し
  やがて空気と一つになるとき
  張り詰めた冬の風が
  木戸の隙間を通り抜け
  僕の背中の肉を削ぐ



 「眼球」

  朝、
  机に置いた分厚い辞書が
  私をひいていた
  ぱらぱらとページをめくり
  所々に落書きを残し
  何かを小さく囁いた後
  声をたて子どものように笑った
  ……やがて
  私が辞書を閉じると
  硝子窓の先に広がる青空が
  こう言うのが聞こえた
  ……
   わたしは
   あなたの
   無数の眼球だ
   わたしはあなたの手だ
   わたしは風を流れている
   鳥を飛び
   光の粒を舞い
   すべての歌に響く
   蒼い滝の豊かな飛沫だ
  ……
  私の眼球は
  一つ一つ
  透明な涙から零れ
  青空へ続く
  大理石の階段が
  私の足を昇っていった



 「凸凹の恋人」

  恋人よ、
  君を
  ボール紙から切り取った日
  余計な部分がいっぱいついちゃった
  だから
  凸凹の恋人よ、
  君の髪の香りは
  すこしだけ、空の匂い
  君の手はすこしだけ
  夏の日の若葉



 「芽吹き」

  なんだか解らない
  すべすべした
  丸いものを庭に植える
  一つだけ、丁寧に
  柔らかな土に
  ぎゅっとしまいこむ
  なんだか解らないけれど
  いつかあなたがそれをくれたのだ
  あなたの唇のように優しい
  真っ赤なシルクの袋に包んで
  それから僕は
  椅子に座って芽吹きを待つ
  何時間も
  何ヶ月も
  夏は暑く
  秋は涼しいこの庭で
  昔の夢を思い出す
  幾つか歌も歌う
  老人になったような気分だ
  冬は寒く
  春は温かい
  あなたと出会いたい
  もう一度あなたと
  積もるほど話がしたい
  どの庭であれ、
  それが芽吹くところで






自由詩 言葉へのコラージュ Copyright 草野春心 2011-12-19 17:55:30
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