にっくき御犬様
ただのみきや

冬の黄昏に照り映える
赤いおべべに着飾って
あれに見えるは御犬様
にっくき仇の御犬様
お供はいつも従って
糞を拾うて歩いてる

思い起こせば七日前
クレーム処理で訪れた
上得意の客の家
玄関ドアに札二枚
「猛犬注意」
「咬まれても責任もちません」
恐る恐る入ってみると
そこにはなんとも気難しい
御座敷住まいのポメラニ姫
正気の沙汰ではありえない
わめき吠え立て牙をむく

何しろ相手は上得意
こちらは頭が上がらない
そして相手はご乱心の
御犬様に猫なで声
相手が後ろを向いた隙
電光石火の御犬様
私の足に咬みついて
奥の座敷へ逃げてゆく

営業マンの甲冑の下
ぷるぷる震えるわたしの心
仕事を終えても癒えぬ傷
たましい蝕む破傷風
いくら身分が違うといえど
あまりと言えばあまりの仕打ち
酷すぎまする御犬様

斜陽攻め入る営業車
逢魔が心を抱きながら
ハンケチ噛みしめ泣いている
嗚呼あああ
あれに見えるは御犬様
赤いおべべに着飾って
にっくき仇の御犬様









自由詩 にっくき御犬様 Copyright ただのみきや 2011-12-14 23:42:47
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