六月
草野春心



  六月
  君は椅子に掛けて
  ジグソーパズルをやっていた
  薬缶が沸くのを待ちながら
  壁にもたれて
  僕がそれを見ていた
  六月
  外は雨で
  夕方の部屋には
  目に見えぬ建造物が
  静かに組み立てられていた
  複雑で
  馬鹿に緻密で
  けれど無意味な
  目に見えぬ建造物
  六月
  君はしかめ面で
  僕は間抜け面で
  それは永遠に続くような景色で
  豚の餌にでもなればいいと
  なんとなく思った
  外は雨で
  「あのね、」
  「だからね、」
  「云いたいのはね、」
  なんでもいい
  君の唇から
  つぎの部品が
  運ばれてくるのを待っていた
  六月
  あの六月
  君のパズルは
  不気味なモナ・リザだった
  薬缶はやがて無愛想に音を立てた
  だから
  外は
  雨だった





自由詩 六月 Copyright 草野春心 2011-12-11 09:30:18縦
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