あるところに
ただのみきや

あるところに一人の男がいた
男は理想を見いだせない革命家であり
大義名分をもたないテロリストだった
彼にはため込んだ多くの武器があったし
破壊活動のためのノウハウもあった
それらが彼を一つの衝動へと駆り立てる
彼は目の前のスペースを埋め尽くしていく
広げられた破壊のイメージへ
真っ赤に熱した熟語を装填していく
幾重にも隠喩のトラップを仕掛けては
多くの人をまた自分自身をも殺傷するであろう
時限式の直喩を隠しておいた
すべてが文字で埋め尽くされたとき彼は
一瞬躊躇するが 静かに そう小川でも
のぞくように自分の作品に目を向ける
まるで己の存在を確認するかのように

あるところに一人の女がいた
女は気球にあこがれたが
実際の人生は切り落とされるバラストだった
彼女は時間を着重ねてはいたが少女のままだった
彼女は口をひらかないが
心の中には悲しみの源泉があり
それが満ちてくると彼女の目から
ぽろぽろとことばがこぼれ落ちた
ぽろぽろこぼれ落ちたことばは
連なって彼女の詩になった
やがてそれは細い蜘蛛の糸のようになり
風に飛ばされていった
どこか遠くで
誰かがその光る糸を見つけてたぐり寄せると
その悲しみの詩から なぜか慰めを受けるのだ

またあるところに一人の男がいた
男は白骨だった
男は気前よく自分の血肉をそぎ落としては
あっちこっちにふるまった
多くの人に味見をさせて 大評判を得ていた
だがいまはただの骨
形跡だけが残っている
マグマに呑まれた木のように
冷たい雨に打たれる墓石のように
もう何も生み出すことができない
枯れ果てた泉
だが男はあきらめてはいなかった
男は待ち望んでいた
ロゴスではなくレーマを
神の息吹とともに








自由詩 あるところに Copyright ただのみきや 2011-12-08 23:42:21
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