【連詩】空を飛ぶより楽しいこと
メチターチェリ

僕は偉くなりたかったのだ。無敵で、黄金で。野原に独りでたつ風車みたいに清く正しく。あるいは、おおきなメダルをさげて、僕はあなたちの守り手に。なりたかったのだ。そして明日に咲く花を収集して、素敵な名前であなたたちを、名付けたかったのだ。

持て余しているのは何だったのか。みずうみのほとりに一軒の小屋がある。まるでヘンゼルとグレーテルが迷い込んだことがあるような。そこでは〈鯉〉が〈恋〉に進化するための科学実験が日夜行われていたのだ。師走のたそがれ。

たぶん僕たちはどこに行ってもどこにもゆけなかった。感情を漁っても、井戸を掘っても、飼い犬をいじめても。僕たちは僕たちが吸った、たくさんのたばこの、黄金の灰がそらに吸い込まれて、また降ってくる、そんな日々をてのひらにゆるやかに受け取るだけだった。

それは何度でも同じ場所に戻ってくるボールの軌道のようなものだった。あるいは初めて訪れた地に郷愁を感じてしまうような、青さを残した果実のような、なんべん唱えても消極的思考が貼りついている〈のぞみ〉という言葉のような。

で、空を探そうとおもった。飛行機がジュラルミンを光らせながら、恋人に婚約をせまる、飛行機雲を綴ったりとか、パラグライダーとか、ゆくりない水上飛行とか。僕たちの、のぞみとか、しあわせとか、そんなものの、鳴るほうに、僕たちは飛空したかったのだけど。

だけどさ、雲は流れていた。雲がながれるようにぼくたちもふゆうして、人なみに飲み込まれていた。生え変わったばかりの翼。ながれる風を全身で受け止めていたつもりだったけど、旋回は困難を極めた。どこに着地をすればいいのだ。迫りくるたそがれ。

息をすって、ぜ、つ、ぼうと発音したら、僕たちはどこにでもゆけなかったけど、なにそれ、とうみねこが鳴いた。そして僕たちは手のひらにうけた灰をまた撒きちらしていく、戻れる空をわすれないように、止まない昼を夜をうらむみたいに、ランドスケープが光を落とす方に。

僕は偉くなりたかったのだ。無敵で、黄金で、羽をのばせば地球も見えた。吐いた息をふたたび呼吸し、頭から白い湯気を出しながら進んだ。ずいぶん遠くまで。おおむねは光のさすほうへ。昼と夜のさかいめは案外さびしい。僕は景色を封印した。


自由詩 【連詩】空を飛ぶより楽しいこと Copyright メチターチェリ 2011-12-05 01:29:30
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