青森行き
木原東子
Y一家北国に行く
鹿児島から、蒸気機関車にて
二晩寝て座席から転げ落ちた
到着、霜月、小雪
窓から永遠に降る雪を
あきず眺めた
二階まで積雪
道から雪の階段を下りて
やっとポストにたどりつく
馬車が走り
乗っているのは
カイマキを頭から被った土地のおばさん
小川のそばに水道が一本
近所の人が来て洗濯をする
絞るやカチンと凍る
言葉が通じない
ラジオもろくにないので
標準語を知らない子ども達
Yのオトートはしょっちゅう溝に落ちた
一面の雪なので
*****
一面のたんぽぽだった
春になるや
家の先は八甲田山まで原野である
緑の土手にきらきら小川が歌う
りんごを山ほど食べた
鹿児島ではちびちび前歯で齧って食べていた
美しい顔立ちの遊び友達
片親だったが
どんな人生が待っていたのだろう
そういえば
鹿児島にも片親の愛くるしい遊び友達がいた
父親の居ない子が多かった
Yの父親が定職を得たのだった
クリスマスにピンクの小さなタンスを
買ってもらった、人形の服のための
弘前で見た桜
こんなものがあるのかと見上げた桜
次の冬が来る前に
突然Yの父親が転勤となる
日本海沿いに
蒸気機関車で南下した
どこまでも寒々しい海