「コクリコ坂から」を見て
渡 ひろこ

久しぶりにジブリ映画を映画館で観た。この夏封切りの
「コクリコ坂から」。急遽予定が変更になり、時間に余裕
が出来たからだ。当初は他の洋画を観るつもりだったが、
ちょうど良い時間帯のものがなく、期せずしてアニメとい
う選択になったがこれが予想外に良かった。

主人公は昭和30年代の女子高生で、良き昭和の時代の
青春アニメ映画だ。昔のジブリ映画「風の谷のナウシカ」
のような壮大なスケールはないが、その代わり一点に集約
して繊細に制作されている。忘れかけていた日本人の生活
の中にあった情緒や、品性を保ちながらも揺れ動く若い男
女の心情の機微を丁寧に描いている。

奇しくもこの映画を観た当日の夜、NHKで宮崎駿氏と
今回「コクリコ坂から」の監督をやった息子の宮崎吾朗氏
に、焦点を当てた番組をやっていた。
構想から具体的に絵コンテとして着手し、映画として成
す長い制作過程には、当然ながらあの3月11日も通過し
ている。例外なくジブリも計画停電を余儀なくさせられた。
締め切りが迫る中、混乱を避けるため作業を三日間休みに
するという、やむを得ない選択を翻したのは宮崎駿氏だっ
た。最初はスタッフの事情を推し測れないワンマンな言動
かとも思ったが、こういう事態だからこそ、神話を作るの
だという。非常事態だからこそ、頑張る。窮地に陥った時
に出る底力は団結力も更に増す。そんな長年のキャリアか
ら来る判断が、息子の吾朗監督にとっても、良い映画とし
て結果を出すことに繋がっていったのだと思う。

ジブリ映画「コクリコ坂から」。多少こじんまりとはして
いるが、監督第一作目果敢に挑戦した「ゲド戦記」と同じ
轍を踏んでない。吾朗監督の努力と情熱と父親譲りの天分
が、早くも二作目で実を結んだのだろう。




詩誌「馬車」45号掲載


散文(批評随筆小説等) 「コクリコ坂から」を見て Copyright 渡 ひろこ 2011-11-14 22:13:15
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