霊安
salco

どんな棺も
青年の死には窮屈だ
母親の嘆きも
揺籃には大き過ぎる

白い菊も
その肌には不似合いだ
彼の愛したのは太陽や風
ロックンロールや女の脚

ああ、大きな坊や達
逞しい赤ん坊達
父より先に死んではいけない
恋人を残して逝ってはいけない

青年の亡骸に葬儀は似合わない
早春の、真夏の嫡子達の死には
どんな墓石も似合わない
使い果たすにあと半世紀はあった命には

最も無益な死は子供や若者の死
最も在り得べからざるのは光の消失
子は清潔なベッドに、青年は窓のある部屋に
彼等にはマンションを建ててやるべきだ

都心に海辺に郊外にあらゆる土地に
彼等が持つべき筈の家庭を作り
彼等の稼ぐ筈だった所得で飾り
以後六十年間、存在の権利を保証するのだ

エンバーミングを施された彼は
ガラス張りのベッドに生気に満ちて横たわり
等しく日の光と世界の時間を貸与される
時おり訪問者が会いに来る

そこには永遠の若さと
彼を運び去った死への
疼痛と慟哭だけが在る
彼が呼吸し目覚めぬ限り

十年、二十年と経つうちに
そうしたマンションも随分増える事だろう
死せる若者や子供の家は
どんどん高層化して空にそびえ立つだろう

この聖所こそ、永劫の静謐と
深い憤怒で俗界と仕切られている
彼等は生きていた そして奪われた
行使すべき既得権の全てをその美しい体から

だから我々は彼等の奪われた権利を
この世界において当然回復せねばならない
――― 生命と未来以外は全て
何故なら彼等こそは最も生存すべき者達だからだ

「やめてくれよお袋、レーニン毛沢東じゃあるまいし
 俺の死体も俺の物だろ
 晒し者にして、このうえ頭を撫でたり頬ずりしたりする気かよ
 接着剤でくっついた鼻の頭なんか御免だぜ」


自由詩 霊安 Copyright salco 2011-11-08 00:03:33縦
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