寡黙のひと
恋月 ぴの

思い出の数には限りがあって
両の手のひらからこぼれた思い出は
ひとひらの色あい

鮮やかに晩秋の野山を彩っては
やがて力尽き
道端の
ふきだまり
静かな眠りに何を夢見る




ひと恋しい

何ゆえにと問われても
触れ合う肌の安らぎと組し抱かれて

額に滴る汗は狂おしく
愛する男に犯さる悦びに酔いしれたひと夜が
忘れられないのか

満たされたくて
滲みでる欲情の兆し

メス豚と尻を叩かれた肌の震えはよみがえり

歯がゆさにひと恋しさと
鏡へ映す
この肌のほてりは鎮められずに




忘れえぬもの
それゆえにこころの奥襞で疼き

愛は
肉欲は

気づけば漆黒に沈むやせ細った潅木の枝先に

百舌が串差した早贄の長い

長い触角は冷たい北の風に震える





自由詩 寡黙のひと Copyright 恋月 ぴの 2011-11-07 16:07:32
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