怪物
コーリャ


クジラに呑まれて死にたかった。暗い胎内の小高い場所で三角座り。マッチを擦ったらすこし歌って。誰も助けにこないことがちゃんと分かったら。アイスティーの海にくるぶしから溶かされて。人魚として生まれかわりたかった。潮に吹き飛ばされて飛空する世界は、青色と月がみんな仲良く暮らしてる。

私は待っていた。離れの暖炉のなかに隠した金魚鉢の前で。朝には銀色の水を注いでやり。夜には段ボールを被せて眠らせてやった。餌には私の血をあげた。無口なバイオリニストみたいにカッターを引いて。人差し指で水面を掻いて。早く人間になってもらえるように。私が溶け出すように。でも浮かび上がったままの魚鱗は私を詰った。私は失敗した。たぶん、金魚は黄金の鳥になりたかったんだと思う。黄金の人っていないのだろうか?

そんな時だって私はなにかを待ちながら生きていた。乳色の海のように浮かぶ地平線と、降りしきる仮定の隕石群の原を、はんぶんこに眺めながら。私は待っていたのだった。車内は夕暮れを運んだ。戯れに唇を寄せた車窓は湿った紋章を浮かべた。私たちは音を微かに立てるくるみ割り人形みたいな気分だった。果実の匂いがした瞬間にバスはトンネルに入った。出し抜けに闇を食道に流し込まれる。暗闇に溺れる。こんなところでは決して眠れなかった。トンネルを抜ける。人類を皆殺しにしようと、彼は誘う。銀紙を延べたような町々。陸橋を超えて。光はどんどん捨てられて、またトンネルに入って、出たときに、私はやっと、ひとごろし。と発音した。バスは次の王国に向かった。

私たちは体内に動物園を経営しているのです。タオルケットで覆面した教祖が高らかに宣言した。私の豚。私の猿。私の熊。私のきりん。私のドラゴン。私のにんげん。木組みの高台にいる教祖はピンクのスーツを着てる。タオルケットが風にはたはた鳴る。丘にずらっと体育座りな私たちはみずからの胸を抱きながら飼育している。私のキメラ、育ちなさい。忘れられた水車のある風物を過不足なく混じらせてしまうみずいろの降雨。私たちの空。私のキメラの飛ぶ空。さあ祈りましょう。祈りましょう。と言う声は獣のそれが混じっていたけど。私たちは空をみあげることをしてはいけない。

小説みたいなニジマス釣り。電子をてらてら降らす陽光。水面は川魚の影を結んで開いて。ほどけきった言葉。光の溜まりに足をすべりこませる。あの時!はそんな名前で呼び習わされた。そして、それは別の場所で、魚に似た鳥たちがゆっくりと回遊する踊りの下で、尖塔の鐘を三度だけ鳴らした。虹が咲いた根元には王国があって。革命のような雨にゆっくりと溶け出して、消え去り。私たちはそれを確認したあとに飛行。私たちは新しい虹をさがす怪物だった。私たちは。私たちをそんなふうにしか理解できなかった。



自由詩 怪物 Copyright コーリャ 2011-11-02 00:42:47
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