出て来ない
salco

渋谷で夕食にした
友人はペスカトーレのセットと生
私はアスパラガスとウニのトマトクリームを頼んだ
隣の若いカップルは今しも席を立つところ
突き当たりにはインド系のカップル
パキスタン人かも知れない
食後なのか話し込んでいる
腰にかかる髪の女は赤いニットの背を向け
男は30代後半か
紺のGAPの大手提げその他を横に
茶の革ジャンに天パのボブを七三に分け
よくわからない

あらかたサラダを終えた頃
男がトイレに立った
意外な短躯だ
ドアの上の「アメリ」的ランプが燈る
パスタが来た
麺は上々だがソースにパンチが無い
塩コショウが無いとは自惚れた店だ
タバスコで我慢する
5分は経った
カレーじゃないので腹がトラブルか
馴れればなかなか滋味深い
ウニはねー、やっぱり軍艦巻きだよねー
あ、そうだ。こんど美登利寿司行かない?
いいねー、巨大あなごねー

10分は経った
秘術を用いてインド亜大陸にトラベルか
イメージ共有で友人が噴く
冷め出すと味が落ちて来た
高カロリーのもったり感に辟易が兆す
15分は経った
眼鏡の小学生が通り過ぎ
ノブに手をかけ、開かないのでランプに気付く
1歩退き、手持無沙汰で待つ
ノックもせずに行儀の良い子だ
もしや専門家を要するトラブル発生か

3分は経った
弟なのか、背の低い子が合流した
兄はかすかに身をよじり
弟はムーンウォークの真似を始める
中は大変な事になっているのではないか
救急や水道屋を呼ぶ事態ではないらしい
女は微動だにせずつくねんとしている
いつもこんなに長いのか
「もう、やめて」 顔を歪める友人
くの字に免じてやめる
もしや、やはり左手を丁寧に丁寧に洗っているのか
いや、洗面ボウルに尻全体を乗せているのかも
いや、裸でワキなんか泡立てているのかも
煙草に火を点ける

デザートとコーヒーが来た
食べ残しも下げてもらう
と、ドアがふわりと開き、何食わぬ顔だ
逼迫しているであろう兄は
それでも1拍置いてドアを引いた
着席するや談笑が再開する
女が何やら言い、男の
「ピピピー!」 甲高い声と爆笑が意味を伝えた
兄が出て来、弟が滑り込む
変った様子もなく行き過ぎた
すぐに済ませた弟が戻って行くその時
私達も了解した
開閉5回にして対流が始まったのだ

コーヒーを終える頃
女が立った
脚の長さが尋常じゃない
日本にパリコレモデルが少ない筈だ
笑いながら
「あなたの後に入るのイヤだわ」
とでも言っている顔はどってことない
数分で戻った
笑い声を立て席に着く
「んもー、あんたってサイテー(か最高)」
まだ8時半を回ったところ
カップルは談笑を続けている
私達はマルキューのトイレへ立った


自由詩 出て来ない Copyright salco 2011-11-01 23:41:32縦
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