バラボラアンテナ
葛西曹達

サンドバッグの砂
世界は見えずとも
その厳しさを知る

バラボラアンテナ
世界は聞こえずとも
その広さを知る

美容師のハサミ
世界と話さずとも
その多様さを知る

水族館のイルカ
世界を泳げなくとも
その単純さを知る

揚がる錨
昇る太陽
午前5時の風に
誰もが世界を感じる頃

その裏側では
午後7時の真っ暗な地下鉄で
小さな画面の灯りを便りに
世界にしがみつこうとする

目の前に座るものも
たった10字の文字列も
等しく他人であり
また等しく異世界の住人である

その目は その耳は
その鼻は その指先は
世界とどう距離を持ち
世界をどう切り取る

たったひとりぼっち
電波も途切れたまま
その顔を その声を
誰が受信してくれる

電波受信準備オーケー
只今午前2時ちょうど
近くて遠い世界と
向き合う準備も忘れずに


自由詩 バラボラアンテナ Copyright 葛西曹達 2011-10-24 00:21:22
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