いちご
みい

とろり 練乳だけが粒の奥の事情を知っていた
ある種はここは甘すぎていつのまにか自分が居なくなると言っていたし
またある種は女の子の風邪を治そうと熱ばかり飲んだ
なのにあたしはそれをグラスの中に落として丸のみしたのだ


雑音を避けて耳を塞がないで
あたしの ただいま をいつも聞き逃している
そんなときいつもあたしは冷蔵庫を開けてしまう
赤い粒、はやく落とさなければ。


ひとつ グラスの中にあたしが見えた
よるが深くなるごとに種は眠ってゆく
眠る前、無造作すぎたこの生活を少しだけ持って行ってくれた
だけど、たぶんいちばん重要なものも一緒に持って行ってしまった
あたしの髪はいつまでも乾かないでいた


ふたつ 車の音が夢にまで突き抜けてくる
不愉快なあたしの夢のなかに猫を送り込んだのは誰だったか
あたしに甘えて にゃあ と鳴く
静かにして。唇に人指し指をあてると不気味な夜が来てしまう
耳を塞いでやっとあなたとおなじになれた



ある朝 あたしは 夢を見た


くらいこのへや
ずけいばかりの
からだからでた
ごみそればかり
にどとおはよう
かえらないあさ
じっとしていて
つきがでるまで



みっつ 届かないとわかっていて手紙をかいた
目はだいじにつむってかいた
あたしのかいたひともじひともじは
かくごとにグラスに落とした
そのうち赤くなったひともじひともじは
真っ赤なものもあったけれど
まったく染まらないでいるものもあった



ぶかぶかのしゃつ
きれいぶるただ
よるのおくまで
うなるそれだけ
なくならないの
みらいけいだけ
ぎんいろのつぶ
てにあまるどく



そのグラスに、練乳をしぼって。
果実はとうにあせをかいて熱ばかりもっている







未詩・独白 いちご Copyright みい 2004-11-21 23:03:30
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