ホワイト
健
涙が邪魔だから
瞳はもう必要ない
見ることは諦めて
耳をすます
そんな日々が転がり始め
ホワイトシチューの中に溶けていく
しばらくこれだけを食べて過ごそう
鍋をぼんやりと見つめながらそう決意する
+
国境を知らない僕は
白線の上を歩きながら
ふとどこまでも行ってしまいたくなる
「この電車は当駅止まりです」
どこか気のぬけた声が聞こえる
+
食べたいものが
どこから来るのかも知らず
好きな音だけを選んで拾って
胃の中で溶かしていく
今日も白くはなかった
明日も白くはないだろう
不思議と黒にならない色を
毎日毎日繰り返し混ぜ合わせていく
ふと 意味もなく
怒りに憧れたりしながら
+
新聞と牛乳の後ろで
朝が順番待ちをしている
それをあえて無視して
ベッドの上で 鍋の中身に思いを馳せる
今日混ぜられるのは どんなものになるだろう
横たわるシーツはひどく汚れていて
一言では表せない色をしていた
始発列車が遠くで悲鳴をあげている
+
緑豊かな景色が住む街を
修正液を持って歩いていく
涙が出るような
絡み絡まれ混ざりあった歌声を
耳の中に放り込みながら
+
もう必要のない瞳を
シチューの中に浮かべて
転がる日々を
すがるように追いかけて
食べて食べて食べて
今日も生きている
色は変わり続けている
+
色は変わり続けている
自由詩
ホワイト
Copyright
健
2011-10-13 03:06:41