マンカインド
salco

 室内楽

感銘という
陳腐な言葉で飾り立てられた
フリルとボウのブラウス姿の種馬が行く
題字ばかり大きい
ささやかな詩集を片手に
トム・ジョード役ばりの
理知的気品を醸し出す歩幅を以て
百ワットの電球の行列と
リノリウムの大理石の間を

蒼白く病んだ
何より行儀のいい謙虚と誠実は
三段腹のゴ婦人がたや
インポをかこつ紳士諸氏に
カンメイを与えるものだ
せせらぐ清流は
水虫でぶよぶよな足を浸す為に在る
しかもスリッパを履いたまま

侏儒こびとがその容姿で
人々の嫌悪を集めぬ為には
いっそう献身的に
人々の役に立たねばならない
善良すなわち滑稽に
実に
彼は身の丈174センチの侏儒であった
立つか立たぬかのパフュームを身に纏い
寡黙な細身の青年はその目に憫笑を湛え
人々の間を縫い歩く

ヒューマニズム
そうヒューマニズムだ!
腸閉塞を起こした腹と骨相のレリーフでもって
覆った目をすら脅かす褐色の餓鬼ではなく
色白でねこ毛の
寡黙なヒューマニズムこそは感銘を与え得る
適度な栄養と中肉中背の生まれ
過度でないインテリジェンス
気弱で遠慮がちな正義感
ケンキョとセージツのテーブルマナー
G線上のユートピア
アイドリングの倫理観
御婦人方の目はその柔らかそうな唇に
紳士諸氏のは引き締まった尻に注がれ
同時に彼は良い給仕であり
権威のケツを舐め回すのが何より好きだ


  
亦、男在り



 徒労或いは神聖

ふと、その顔は
ムイシュキンを思い起こさせる
何も知らず
何もかも知ってしまう
常に加害者たり得ず
被害者にすら堕ちない顔
何一つ手を下さぬくせ
きっと全てを混ぜっ返す
しかし天使づらであり続ける
子供の懊悩のように
あらゆる審判からすり抜ける
ドストエフスキーの垂らす
インクの行間を歩き回る男
うず高く積まれた文学書の中を
散策する見物人達に愛される事で
その悲劇的終末を相殺している連中
そういう手合いの顔をしている
決して悪者にはならず
悪い役回りだけをする破壊者
しかしヒューマニズムとは
忍耐に過ぎない
それ以上のものではない
死んでも忍耐する事だ
罪なき、という顔は子供だけで沢山
全き善人(なんて本当にいるのか?)
ヅラには吐き気がする
奴は秤のような人間だ
天秤の片方をこちらの鼻先に突きつけて
驚いたような目をして微笑している 
まるで阿呆みたいに

全き善人は果たして
本の外で力を有するのか
それはかしこの物語にも明らかなように
その存在は有害であれ
死後は速やかに忘れ去られてしまうのだ



注意せよ
注意せよ
奴に従えば痛い目に遭う


自由詩 マンカインド Copyright salco 2011-10-11 01:04:32
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