旅路のひと
恋月 ぴの

旅ってなんだろう

帰るところあっての旅なんだろうけど

住んだこと無いはずなのに
慣れ親しんだ気がしてならない場所へと帰ってゆく

そんな旅路もあるような気がする




無人駅のホームでひとり

秋の日差しは山間を掠めるように影を伸ばし
手持ち無沙汰のベンチでアキアカネは羽を休める

手にはカバンひとつ

思い出とか詰まっていることもなくて
仮に誰かの詩集の一冊でも入っているのなら

言い訳のひとつでも語れるのかも知れないけど

次の列車はこの駅に止まるのかな

耳を澄ませば澄ますほどに辺りは静けさに支配され
駅のはずれで交差する鉄路は鈍い光を放ちながらも夕闇と沈む




果たしてこの場所だったのだろうか

ここでは無かった気もするけど
いつかの日に訪れたはずの記憶を頼りに探し出す

わたしがわたしであった証

生きてきた痕跡

たとえ泥に塗れていたとしても
わたしがわたしであったとするなら、それを否定することは叶わずに

幸せとは時を刻んだ日々のひとつかみ
ほろ苦く噛み締める刹那にも訪れることを知る





自由詩 旅路のひと Copyright 恋月 ぴの 2011-10-10 18:54:15縦
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