9月/真夏日 針仕事
たちばなまこと


9月
真夏日
ロックミシンと
直線ミシンに
電気を通わせる
いくつもの
ささくれだった傷を接ぐように
激しくも繊細に
針を打ち込む

壁に拳を壊す
いくつもの
波を立てる
それは十三夜
夢で見た濁流
妹を捜した
空は晴れて
海の果てから太陽が
光を放射しつづける

奔放に
濡れて
しなやかなモダールに頬を寄せ
裁ち切ろうとする
椅子から床へしなだれ
目をつむるその前に
黒髪にはさみを落とす

もうひとつの弟よ
つよくなりなさい
自分のちからで歩きなさい
その手で本物を知りなさい
甘ったるさを埋葬しなさい
それはまるで
自分の後頭部を
裁ちばさみの柄で殴りつぶすように
憎しみを込めたやり方で
いくつもの鉄を打ち込む
偽りよ
死になさい
病めるひとよ
悲しみに狂うひとよ
やさしさに溺れるな
泥を頬張った荒れ地のミューズが
怒りを両手に握り砕く

9月
真夏日
バスに使者をかくまって
尺を取る支度はできている






自由詩 9月/真夏日 針仕事 Copyright たちばなまこと 2011-09-16 19:16:02
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