異心のひと
恋月 ぴの

どれほど歳を重ねたにしても
夏の終りは感傷的で

どこかしらか和太鼓を叩く音が聞こえてくる

リズムを刻んでいるようであり
生の在り様を現そうとでもしているのか

小刻みに
あえて無表情に




大人になってからの宿題
誰から急かされることもなく
手をつけなかったとしても咎められたりはしないので

夏をやり過ごす毎に重荷となったそれを

精霊流しと拝む

そんな一時しのぎを繰り返しながら
いっぱしの大人になってしまう




浴衣には扇子より団扇が良く似合う

年に何度も袖通さないからと
どこぞのセールとかで仕入れた記憶あるけれど

ぱたぱたと扇ぎながらのそぞろ歩き
和太鼓を叩く音は相変わらずで

力強く
そして官能的でもあり




幾つになっても「明日また」って言葉が大好きで
こんな私の葬式にお坊さん来てくれるのだろうかと悩めば

参列者の来ないお通夜の席に年老いた母ひとり
めっきり不自由となった足腰を嘆くも

先立ってしまった娘の不憫さには口を閉ざす




いつかの日にも聞こえてきたような
和太鼓を叩く音

小刻みに
闇へと流れた我が子の鼓動




自由詩 異心のひと Copyright 恋月 ぴの 2011-08-29 19:34:51縦
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