異心のひと
恋月 ぴの
どれほど歳を重ねたにしても
夏の終りは感傷的で
どこかしらか和太鼓を叩く音が聞こえてくる
リズムを刻んでいるようであり
生の在り様を現そうとでもしているのか
小刻みに
あえて無表情に
※
大人になってからの宿題
誰から急かされることもなく
手をつけなかったとしても咎められたりはしないので
夏をやり過ごす毎に重荷となったそれを
精霊流しと拝む
そんな一時しのぎを繰り返しながら
いっぱしの大人になってしまう
※
浴衣には扇子より団扇が良く似合う
年に何度も袖通さないからと
どこぞのセールとかで仕入れた記憶あるけれど
ぱたぱたと扇ぎながらのそぞろ歩き
和太鼓を叩く音は相変わらずで
力強く
そして官能的でもあり
※
幾つになっても「明日また」って言葉が大好きで
こんな私の葬式にお坊さん来てくれるのだろうかと悩めば
参列者の来ないお通夜の席に年老いた母ひとり
めっきり不自由となった足腰を嘆くも
先立ってしまった娘の不憫さには口を閉ざす
※
いつかの日にも聞こえてきたような
和太鼓を叩く音
小刻みに
闇へと流れた我が子の鼓動