全ての猫と窓のために
縞田みやぎ




その時が来たのならば
全ての窓を開け放しましょう
それが その時であるのならば

まいにち みて いるのだけれど

ひざの上で組まれた指が
互いに爪を立てている

まいにち かえるたびに さがすのだけれど
みつけてあげられないの
わたし まどを しめてきてしまったから

その時 私たちは道の上にいた
どこへでも行けるし 戻れるのだと
日は夕刻にかかり
あらゆる道の上は どこかへ行く人たちで あふれ

それが その時であったならば

ねえ どうにもならなくて
ねえ もう どうにもならなくて

爪が 爪の根元を 白くする

あなたの猫を 誰も探さない
あなたの猫の骨を 誰も探さない
あなたのお台所を 誰も探さない
あなたの午後を 誰も探さない
あなたのなでる手を 誰も探さない

まどを あけてきたら よかった

そう ねえ

そう   ねえ

それが その時であったならば

灯りのない海が
黒く 凪いでいる

全ての窓を開け放しましょう
それが その時であるのならば
遠く 遠く 遠くまで 開け放された窓から
全ての猫が
背中をしならせ 尾をはねて
ああ それは きっと
たいそう 見事に

遠く
遠く
遠く

やわらかな 着地をするのだ





自由詩 全ての猫と窓のために Copyright 縞田みやぎ 2011-08-28 00:03:47
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