久方の中なる川
春日線香

 久方の中なる川の鵜飼舟いかに契りて闇を待つらむ  藤原定家

新古今和歌集・夏歌・254番
技巧が前に出すぎるきらいのある定家の作品において特に難解な歌。
「久方の」は空や光などにかかる枕詞で、この場合は「月」を導き出す。
つまり「月の中なる川」ということなのだが、これは月の中には桂の木があるという伝説にちなみ、「桂川」を表している。

 桂川の鵜飼舟はどんな縁があって闇を待っているのだろう

月の光と夜闇のコントラスト。暗い水面に月が映る鮮烈なイメージがある。
歌意は「わたしはどんな因縁があって暗い来世を待っているのだろう」となるか。
不安定な水の上での問いかけは心細く響く。

また、前半部の謎解きを後半部が促しているようにも思う。
「いかに契りて闇を待つらむ」…どんな仕組みでこの歌は成り立っているのか。
約束事によって導き出される「桂川」は、名指しでは表現されていない。
歌の向こうに文字で表されない桂川があり、桂川は、様々な場所と接続する。
それは『土佐日記』で船が着く場所でもあり、海へと繋がっている。

 どんな繋がりがあってわたしは今こうして生きているのだろう

私にとってこの歌はネットワークを前にしての詠嘆なのです。


散文(批評随筆小説等) 久方の中なる川 Copyright 春日線香 2011-08-24 06:48:36
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