片目は閉じられ時間は消えて
水町綜助

夏に
瞼を虫にさされたので
片目があきません

いくらか黄色を
強めに帯び始めた
八月のカーブ
片目で町を走れば
遠近感がなくって
前の車も
白線も
ドアーも
濡れたボトルや
余白や
誰かだって
どこまでか

きみにあげたあの本には
たぶん
目に見えている
愛情を持てる人と
それを見ている自分と
その間に確実にへだたりとしてある
距離と
時間の
関係性について書いてあったと思う
たしかきみはそれにひとつ
またひとつ玉薬を飲み込むように
うなづいて
僕たちが始まった
それでお互い
いちばん薄いところを
すりあわせて

「このためだけに、
生きてるンだから」

と言った
たしか三度
すべて
はっきりと

僕はきみにいろんな質問をしてしまって
きみも僕にさまざまな質問をした
それ自体はわるいことじゃない
僕たちはつらいことも
きらわれそうなことも
話した
それでなにかが解ったとは
まったくおもわないけど

ぼくはワールドオブ脳と
その自転とまったく逆回転に
くるくると何周かさせた言葉を
きみにはなしているんだ
とはなした
たとえば、
会いたい
言葉は逆回転をはじめる
猛烈な速さだよ
そうすると
まず漢字がほどける

あいたい

そして文字の結合が外れて






さらに回す
するとたとえば

あ、からさまに
い、たいから
た、だ今は
い、る

とか言ってみる
伝わるか伝わらないか
わからないまだるっこしい言葉だよね
いや、伝わらないね
これだけじゃ
だからたくさん前後につけてしまう

だけどきみなら、とも
すこしおもう

「このためだけに、
生きてるンだから」

と言ったきみ
別にあいたいといってるわけじゃないんだよ
たとえば、だ

こうやって
いったい何文字
きみに話しかけただろう
それがどこかにあるといいな
もうすでにいろんなことがあったきがする
きみは時間ってものが
流れてないんじゃないか
って言ってたけど
たしかにそんなものはきっと流れてなくて
浮かんでいるものだろう
頭の中では流してるけどね
だからたまに前と後ろをぶったぎって
浮かぶ言葉を伝えるんだろう
伝えようとするんだろう
浮かぶ言葉を
それはワールドオブ脳を逆回転してることと同じなんだよな
スーパーマンのたしかシリーズ第一作か
そんなシーンがあったように

そんな
夜々を過ごして
ああこれも時間だけど
僕たちは目を見て
流れてないなら
ただ僕たちの分子が
何かに嫌気がさして
手を離して
僕たちの体が
腐っていって
消えていくなかで
なにかはっきりしたものが
ぶったぎった中に息づくといい
そうおもう

そして
片目が閉じて
遠近感をなくしている今の僕には
それが少ししんじられる


自由詩 片目は閉じられ時間は消えて Copyright 水町綜助 2011-08-19 13:35:58
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