羽のない鳥
士狼(銀)

ことばの世界から遠ざかってしまったのは
見ようとしても見えなかったものが
見たくないのに見えてきてしまって
見えるものだけが正しいと思ってしまったからだった
気がついたときにはもう
粘着質な糸にぐるぐる巻きにされて
大きな牙が喉元にきていたのだ

ああ ぼくに 羽はない よ ?


感情を司るココロは胸部にはない
脳の一部が反応した結果だ
犬は笑わない
笑っていると思いたいのは人間だ
心臓は胸腔の正中左寄りに位置するのが正常であり
心臓をハート型に描かれた人は心臓に疾患がある
生き物は星にはならないのだ

そうしてぼくは
鳥になれなくなった


大きな牙がぼくの喉笛を掻き切ると
そこからひゅーひゅーと頼りない音がして
ああ空気が漏れているのだろうと
重たい瞼を押し上げると
我先にと飛び出していたのは自由なことばたちだった
それはしばらくして沈黙し
ぼくはただただ空っぽの体で愕然とした
大きな牙はもう次の獲物を狙い定めていて
空っぽのぼくは発することばを失ったまま

ことばの世界で生きていたのに
理屈に絡まれたぼくはそれを認められなくなって
遂に愛想をつかしたことばたちは
この愚かな生き物から旅立っていったのだった

ぼくはいつだって
鳥になることができて
海を自在に飛んでいたのに


嗚呼。


自由詩 羽のない鳥 Copyright 士狼(銀) 2011-08-18 19:02:09
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