甘噛みのひと
恋月 ぴの

その橋の欄干から身を乗り出せば
清らかな流れの中ほどに石ころだらけの中洲

別段、川の流れに抗う姿勢をみせるでもなく
上流に夕立でもあればあっさりと荒くなった流れに呑まれ
ちょうど今ごろの季節なら週末ともなると
バーベキューの歓声が辺りを支配し

総ては川の流れが清めてくれるものと決め付けている




生きるとはなんだろう
あえてそんな問いに悩まずとも

ひとは生きる
生きてしまえるもの

川の流れをよく見やれば
ウミウの襲来などものともせずにひらを打つハヤの群れ

ひとかたまりと川面に揺れる




むやみやたらと子が欲しくなる

生を繋ごうとする本能の恐ろしさよ

抜いてはならぬとばかり、おとこの腰に絡めた己の執念深さ
それほどまでして産んだ我が子の行く末など

恐ろしくもあり
そして哀しくもあり




アキアカネの飛翔でも見かけられるなら
多少なりとも救われるものを

日差しの酷薄さは密やかな願いさえも無に帰してしまうようで

誰が打ち捨てたのか、ひしゃげた日傘は熱風に舞う





自由詩 甘噛みのひと Copyright 恋月 ぴの 2011-08-15 18:10:18
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