黙夏
高梁サトル


―炎天

いつからか父母の面影もなくなった顔の輪郭を撫で
枯れた景色を見すぎたせいかむず痒い目を二、三度こする

何処にも行きとうなくなった
もう何処にも行きとうないんです

陽射しの下でからからと干乾びていく唇はうわ言をつぶやく
八月 日、快晴

炎天下にて小さなノートの背表紙に手をあて
洞穴から湧き出る真水が肌に滲んでいくたび
静かな旋律が喉元で消える
声にもならず消えていく音が


―とおり雨

深く暗い谷間の底から
高く狭い暗雲を見上げている
此処から遠く雷鳴の轟くところに
君はいるのだろうか
一寸前、黒い翼の影が遮ったあれは
甲高く鋭い狂声が頭上を翳め
大きな雨粒をつれてきた
頭から肩から両腕から頬から爪先まで
私はすべてまったくを濡らして
あなたを想う一滴だけが熱い
涸れ果ててしまうかと案じるほどの
夏であったのに


自由詩 黙夏 Copyright 高梁サトル 2011-08-11 17:39:56縦
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