履歴 ー野良猫3・5ー
……とある蛙

前の街で
俺は淫売宿のいかがわしい玄関口で
夕立に打たれて濡れながら歪んだ
恐ろしいほどの雷は
地上の何物かを鷲掴みにしようと
空から腕を突っ込むが
本当に一握りの無辜の生命を食い物にしただけで
暗くて分厚い雲の間を
後悔しながら唸っている
夕暮れの飛礫は
稲穂をすべての基準とする
この国のかつての住人には
有り難みのある贈与でしかない。

水はすべてを作り平らげる。
水は全てを恵み奪い去る。

俺は泣きながら、黄金の夢を見たが、
一向に夢を飲み干せずにいて
夏は朝四時から体中の汗で
もがきながら目覚め、
刺すような朝陽を窓から投げ入れる
夏の朝陽を呪いながら、
安宿の金も支払わずに
何時請求が来るかとビクビクしながら、
朝食の干涸らびたパン一切れを囓り
白湯でさえない匂いのするスープを啜る。

外では漁を終えた漁師たちが
水揚げ作業を威勢良く行っているが、
相変わらず俺は声をかけられずにいる
ちゃっかりあの猫は
漁師の一人に尻尾の根元を擦り寄せ
鰯を数匹せしめている。

俺は自分の食い扶持すら自分で稼がず
自尊心だけで、居住まいを正すこともなく
ペテン師のように負債を増やしている
ひっそりと、
漁師たちの笑顔の何と豪華なことか
陰惨な俺の心の裏側を見たら
彼らはきっと唾を吐きかけるだろう。

俺はそんな光景を見ながらでも
まだ理屈をこねて誰も振り向きもしない
美 とやらの講釈をしながら
豪華な食事にありつこうとする。
  この街に必要なのは寄生虫ではなく
  確かな博打うちの存在だけだ

酒を飲もう
杯を上げよう
乾杯しよう
おお、この偉大な日常に
不必要なペテン師の描く美か
北から迫る不気味な水の塊の晒される前に
少しの間、離れておくれ黒猫よ。

ペテン師の詭弁で詩が書けるものなら
俺は天空の留置施設で
何の弁護もなく
何日でも勾留されよう
違法であろうと違憲であろうと
この地上に生きるに必要な術すべは一切持っていない俺は
何日でも勾留されよう
そして、地上において持てる全ての詭弁で
詩を一篇書き上げるのだ。


自由詩 履歴 ー野良猫3・5ー Copyright ……とある蛙 2011-08-09 11:43:29
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