線香花火
nonya


逃げ場をなくした熱気が
重く澱んでいる夜の底で
線香花火に火をつけると
涼やかな光の飛沫が
覚めやらぬ地面にほとばしる

しつこく素肌に絡みつく
湿り気を含んだ風の端に
弾き出された光の雫を
ぼんやり眺めているうちに
意識は過去へとさかのぼる


  消え惑う仄白い煙と
  後ろめたい火薬のにおい

  汗ばんだ細いうなじに
  頼りなげにはりつく後れ髪

  華やかな光に揺らぐ
  君の横顔からは微笑みさえ消え失せて

  青白く縁取られた
  ふたりの影は闇の重さに耐え兼ねて

  漂う終わりの予感は
  告げるべき言葉を飲み込ませて


  線香花火を眺めるだけのふたり


  どちらかがついた溜息



  火玉が



  落ち
  


  た



湧き上がる子供達の声

此処に連れ戻された僕は
慌てて下手な笑顔を作りながら
小さな手に花火を渡す

照れ隠しに見上げる
星も疎らな夜空
電線にひっかかったままの
少しだけ欠けた月

君はたぶん
思い出すこともないのだろう
ふたりの最後の夏を




自由詩 線香花火 Copyright nonya 2011-08-06 10:14:34
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