箱のなかのひと
恋月 ぴの

その箱のなかには夢が溢れていた

幌馬車に乗っていたり
早馬にまたがり二挺拳銃は火を噴いて

またあるときは電話ボックスから秘密基地へと飛び込めば

誰もが海の向こうの豊かさに憧れた




箱のなかで身を粉にして働いた

白い鳩の大群が国立競技場の空に舞い
幾度も揚がる日の丸に涙して

国を誇りに思うとはこのことなんだと頷いた




箱のなかのインディアンはいつも悪者だった

日本兵も悪者で情け容赦ない火炎放射の餌食となって

悪者なら何人殺したとしてもそれが正義だった




エノラ・ゲイは箱のなかを飛んでいた

ゼロ戦の遥か上空
ここまでおいでと翼で煽り

悪者なら何万人死んだとしてもそれが正義だった




ダンボール箱に開けた小窓から
君は反っ歯な顔を出す

あれはいつの頃だったか
カラオケなんて便利なものはなかったけど
未来ってことばに人々は夢を託し




「臨時ニュースを申し上げます」

おしゃもじ片手に君は真顔でニュースを読み上げ
慌てて空を見上げれば

あれはUFO?

銀色の機体から放たれた爆弾がモノクロームの空に鳴く







自由詩 箱のなかのひと Copyright 恋月 ぴの 2011-08-01 19:13:48縦
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