箱のなかのひと
恋月 ぴの
その箱のなかには夢が溢れていた
幌馬車に乗っていたり
早馬にまたがり二挺拳銃は火を噴いて
またあるときは電話ボックスから秘密基地へと飛び込めば
誰もが海の向こうの豊かさに憧れた
※
箱のなかで身を粉にして働いた
白い鳩の大群が国立競技場の空に舞い
幾度も揚がる日の丸に涙して
国を誇りに思うとはこのことなんだと頷いた
※
箱のなかのインディアンはいつも悪者だった
日本兵も悪者で情け容赦ない火炎放射の餌食となって
悪者なら何人殺したとしてもそれが正義だった
※
エノラ・ゲイは箱のなかを飛んでいた
ゼロ戦の遥か上空
ここまでおいでと翼で煽り
悪者なら何万人死んだとしてもそれが正義だった
※
ダンボール箱に開けた小窓から
君は反っ歯な顔を出す
あれはいつの頃だったか
カラオケなんて便利なものはなかったけど
未来ってことばに人々は夢を託し
※
「臨時ニュースを申し上げます」
おしゃもじ片手に君は真顔でニュースを読み上げ
慌てて空を見上げれば
あれはUFO?
銀色の機体から放たれた爆弾がモノクロームの空に鳴く