「僕等は何処に行くのでせうね」
亜樹

「僕等は何処に行くのでせうね」

 始発のホームで誰かがそう呟く。
 電車の行き先は決まっている。
 けれども誰かがそう呟く。

「僕等は何処にいくのでせうね」

 病院の屋上で誰かがそう呟く。
 黄色い雨が降る。
 白いシーツが揺れる。

「僕等は何処に行くのでせうね」

 アパートのベランダで誰かがそう呟く。
 家庭菜園のトマトがぼとりと落ちる。
 皮はまだ青く、固かった。
 けれども彼は行かなければならなかったのか。

何処か
何処か
何処か
誰も彼も
何処かへ

 始発のホームで
 病院の屋上で
 アパートのベランダで
 誰かが呟く。

「君は何処に行くのせうね」

 そうして私は飛び降りる。
 此処ではない
 何処かに向かって。


自由詩 「僕等は何処に行くのでせうね」 Copyright 亜樹 2011-07-25 22:05:35
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