分別劇
佐々木妖精

納豆を食べる
納豆を残す
納豆を生ゴミへ捨てる
納豆の容器を捨てる
怒られる
納豆の容器を洗う
納豆の容器を捨てる
怒られる
納豆を拾う
こびりついた葱を捨てられる
納豆で怒る
俺と地球とどっちが大切なんだ!

どっちも大切よと微笑む女
薄々勘付いてはいたが・・・と言葉をつまらせる男

地球
俺の全てを育み
俺の全てを奪ったもの
お前の全ては奪えないが
お前の全てを憎み
お前の血肉を掻き乱そう
原初より受け継がれてきた復讐劇に、この身を焦がそうじゃないか
そう。命の形とは、復讐の所作なのだから


男は家を飛び出し
地球を何度も踏みつけた
数回足を叩き下ろしたところで自家用車をふかし
地球の顔面を掻き毟る
排気ガスを地球のツラに吹きかけながら
幾度となく辞めるよう諭された煙草をくわえ
窓から投げ捨てヤキを入れる

宛てどなくたどり着いた公園
妻とも遊んだボートで漂う心は
出会ったころ まだあどけなさの残るえくぼであるとか
どちらともなく初めて手をつないで 付き合うことになった日であるとか
幾度となくデートを重ね 初めて結ばれた夜であるとか
ウェディングドレス姿 ベールから覗く横顔が
これまで見てきた中で一番きれいだったことなどを思い出して
男は声も殺さず泣きじゃくり
スワンで津波を煽動し岸へ乗り上げ亀を逆にした
再度、凶器と化した車で特攻をしかけ
そこら中の地面という地面を陥没させ、木という木を粉砕して
これから足繁く通い詰めることになるであろう牛丼屋で特盛りを頼み、屍肉を喰らう
一度は愛した女へ 別れを告げる鬼となるために

悲愴を奏でる夫とは対照的に
インターフォンを覗く妻は玄関まで出迎え 命の始まりを告げる
「ほんとに俺の子か?地球の子じゃないのか」
「私たちも地球の子なんだから、この子もきっとそうよ」


自由詩 分別劇 Copyright 佐々木妖精 2011-07-19 06:50:43
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