itukamitaniji



君はまだ
この街の謎に気付いていない
誰かが言った
この街は誰かが見ている夢で
目覚めたら
消えてしまうんだと
途端に
僕の体は透けはじめて
今じゃもう向こう側が見える程
空は剥がれはじめて
その割れ目から
誰かの目玉が
覗き込んでいるのが分かる
逃げて逃げて
走って走って
何処まで行っても
世界は世界なのでした
絶望に追いつかれて
途方にくれて泣いていたんだ
大切な手紙を抱いたまま
誰からもらったのか
もう思い出せないけど
手紙に書いていた言葉
すべてはこわれて
「塔」だけがのこるの
まだ幼い誰かの字
何のことか分からなかったけど
涙は渇いていて
擦りむいた足を払ったら
また走り出した
星は飴玉になって降り注いで
道に張り付いている
ビルは一枚の板でまるで
ドミノみたいに倒れ始めてる
僕の影は剥がれて
僕を追い掛けて来る
捕まったものは石にされて
そこら中石像だらけ
足がもつれて転んでしまった
もうダメだって呟いたら
誰かが手を掴んで
起こしてくれた
誰だっけ?
何にも思い出せないけど
もう一度走り出す勇気を絞って
ようやく塔にたどり着いた
扉を開けて中に入る
螺旋上の階段を
何日間だろうか
いや高々数分だろうか
上りつづけた
ようやく空が見えて
見下ろした街
まるで壊れた模型みたい
子供に踏ん付けられた
レゴの街みたいに粉々
思い出したように
ひとり歌い出した
塔にいるのは
僕ひとりだけか
やがて光がさしこんで
誰かが手を伸ばしてる
あなたは誰?
天使?悪魔?
いや
あなたは僕だ
思い出した
これは僕が見ている夢だ
だから僕だけが
生き残って塔まで来たんだ
もはや街に形はなく
爆弾か隕石でも
落ちたかのようにぐちゃぐちゃ
もう良いよ
終わりにしよう
目を覚ますから
終わりにしてくれ
ごめんよ


自由詩Copyright itukamitaniji 2011-07-18 21:58:32
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